伊太利堂「写真集 続・日本の豆戦車」

伊太利堂主人、吉川和範氏による日本陸軍のタンケッティ写真集。昨夏刊行され好評のうちに完売した物の増補改訂・お値段据え置き版となっております。

「日本の」という枠組みでタンケッティを捉え、国産のみならずイギリスから輸入されたカーデンロイド装甲車についても収録されています。「写真集 上海海軍特別陸戦隊」に掲載されていた機銃マウント形状の異なる車体も別のフォトがあり、「改修型加式機銃車」の名称が記載。上海事変の戦訓を受けての、日本軍の独自改修であることが示唆されています。


本書の特徴としては(吉川氏の著作の常ではありますが)個人アルバムや生写真、部隊内の写真帖などプライベートな一次資料を主な資料とし、既存の一般書籍には見られない写真、このシリーズが初公開となる貴重な写真が殆どを占めています。結果的にではありますが演習風景やパレードのフォトの割合が多く、戦地における撮影もどこかのどかなもの、あるいは戦闘を終えて一段落といった雰囲気のものが見受けられます。


日本の豆戦車(重・軽装甲車)はしばしば日本軍の貧弱な機構装備の象徴のように捉えられ、太平洋戦争後期に米軍によって撮影された写真にはそういう印象を受けることがあります。幸いにして本書では収録内容が日本側の撮影、対米開戦前の時期に絞られていて、痛々しい敗北の記録はありません。小さな車体は人間と対比された撮影でそのサイズを実感させるもので、フィギュアと組み合わせた情景のためのアイデアソースみたいな一面をも持ち合わせる写真集です。実際九二式重装甲車も九七式軽装甲車もどちらもインジェクションキット化されていますから、本書をお題に製作するのもまたよし。


九四式軽装甲車「TK」のページは本書でもいちばんのボリュームを占めています。中国大陸における実戦運用での写真が多く、軽装甲車部隊の実態が伺えるページとなっています。TKは前期型、後期改修型ともファインモールドからキットが発売中、小さいながらもたいへん組み立てやすくてオススメなのでありますが、被牽引車(トレーラー)が海外メーカーのレジンキットしかないのはいささか残念……。これがあると表現の幅は実に広がるハズである。


TKの写真が多いのは独立軽装甲車第七中隊通称「矢口部隊」の部隊誌や隊内で編纂された部隊員留守家族のための「家庭通信」を大きな情報源としているためでもあります。この内容が実に貴重な写真の満載で、南京攻略戦で国民党軍が使用したドイツ製I号戦車A型の捕獲状況や、あまつさえ員数外装備として臨時編成した部隊での運用状況まで撮影されている(!)驚きの内容は皆様是非ご購入の上直接その目でお確かめください(菩薩のような笑顔)


この矢口部隊を含む戦車第十三連隊編成式の一連の大判写真も非常に興味深いものです。日本の機甲部隊が観閲を受けている状況としては昭和20年埼玉県加須における戦車第五連隊のものや栃木県佐野の戦車第一連隊の撮影が有名ですが、ぶっちゃけあれらは負けたところの写真なので、昭和13年11月30日中支戦線漢口に於けるこの記録(独立軽装甲車第七中隊は戦車第十三連隊第三中隊として再編成されました)は陸軍機甲部隊の往時の興隆をしのばせるものです。


秋のホビーショーではタミヤから久し振りに日本軍アイテムが発売されることもありますし、もっと豆装甲車関連に興味が向けられても良いかな……と、思います。以前「将軍と参謀と兵」だったか、戦時中の映画を見る機会を得たときに、クライマックスで救援に訪れる「戦車部隊」がこの軽装甲車部隊だったことにいささか失笑してしまったものですが、しかし大陸の戦線にあっては十分な防御能力をもつ装甲をまとい持続射撃可能な機関銃を装備した軽装甲車は、歩兵にとっての強い味方、頼もしい仲間であったことに疑いはありません。突撃砲というか挺身機銃座みたいなものですか。


本書には乗組員の個人写真も収録されています。どの顔もみな若く、明るい表情で映っているのは何か象徴的で強く印象に残ります。この写真集は日本軍の機甲部隊がまだ若く明るい立場であった時代を今に伝えるものでもあるだなと、そういう読後感を得ました。

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