モデルアート「帝国海軍 重巡洋艦 総ざらい」

モデルアート既刊の艦船データベースから派生した、単一の艦種に絞って艦艇の解説とモデリングガイドから成る「○○総ざらい」。第三作となる今回は人気の高い重巡洋艦です。

各型総計18隻を誇った旧日本海軍重巡洋艦の、そのすべての艦型と個別の艤装の変遷が図版で示されるパートがまずは見どころでしょう。


年代や参加した海戦の違いによる装備の違い、近代化改装や被害箇所の補修などによって細かにその姿を変えていった各艦を模型で再現するための、まずはその基礎となる考証の資料です。


模型メーカー各社から発売されているそれぞれの艦艇から、兵装パーツだけを抜き出して比べてみるのはこれまでも有りそうでなかなか無かった面白い企画です。同じ艦の同じ砲塔でもメーカーごとにかなりの差があり、現在市場でバッティングしている同一艦の比較だけでなく、好みの形状のパーツをチョイスしトレードするにもよい手引きとなるでしょう。


特に近年は高角砲など小さな装備品の、特に別売りのディティールアップパーツの精度が日に日に高くなっていますから、店頭のパッケージやあるいは肉眼でランナーを確認しても詳細がわからないほどの造形を見比べることが出来るのは作り手にとってはかゆいところに手が届くような有り難さであり。


艦船模型はもう十数年ほど前になりますか、大規模にエッチングパーツを投入することによって再現性のレベルを高めましたが、現在ではそれがインジェクションプラパーツで代替できるほどにメーカーの開発力が高まっています。敢えて1/700スケールに限定して「今」の最先端を見せるような編集は、この分野に新規に参入するモデラーをターゲットとしているのでしょうね。


人気の高い高雄型に絞っての事となりますが、アオシマの四種のキットを未塗装で並べてその素性を確認したり、また市場で競合するピットロードやフジミの製品と比較してみるキットレビューのページはモデルアート本誌を毎月チェックしているような方には既出の内容かもしれません。が、新発売のタイミングを逃すと再確認が難しいことでもありますので、「今」このジャンルに手を伸ばす新規参入モデラーには大事な情報です。


作例のコーナーもキット素組みから段階的にディティールアップのレベルを高めていくような構成で、最初からエイッチングパーツ大量投入するようなものではありません。超絶技巧を凝らした作品は確かに見栄えのする素晴らしいものですが、ともすればそのハイレベルさからひとを遠ざけてしまうおそれもあります。多くの人々に実際に手を動かしてプラモデルを作ってもらうための、そんな意図を感じさせる内容です。


タミヤの鈴谷と最上をニコイチして架空の航空巡洋艦をスクラッチするという、いわゆる艦船模型の主流からはちょっと外れた記事もあります。こういった種類の遊びはMA本誌や艦艇模型スペシャルの枠組みではなかなか出来ないことでしょうから、新しい別冊で新しい読者層を開拓するのもまた「今」風なものです。


そして既刊の艦スペシリーズで製作されてきた1/350の作例が「重巡洋艦各型艦橋コレクション」として艦橋部分のみにクローズアップしたフォトがグラビアアイドル的(なのか?)に掲載されています。重巡の魅力はやはりこれら艦橋構造物の重厚な姿にこそ凝縮されるものですので、グラマラスからスレンダーまでよりどりみどりなディティールとシルエットを存分にお楽しみください。


そしてどんなに精巧な模型よりも実物のほうが生々しい魅力にあふれていることを再確認。近年の「擬人化」風潮には眉をひそめるひとびとも、むしろそのような立場であれば尚のこと、模型を通じてどんな二次元美少女にも負けないほどのセクシーさを実際の軍艦が持つことを大勢の人々に喧伝し啓蒙し、果ては「愛宕の塵芥投棄管(;゚∀゚)=3ハァハァ」ぐらいのハイレベル紳士にまで教導するような……

そんなことを思うわけです。

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