文林堂「グラマン F8F ベアキャット」

世界の傑作機No.148は究極のレシプロ戦闘機グラマンF8Fを採り上げています。
このシリーズを長らく愛好されている方なら「ベアキャットって既出ですにゃー」などと鋭く指摘されるかと思いますが、同シリーズNo.94で出版された時にはF7Fタイガーキャットと抱き合わせでした。けれども今回は単独なのです。思うに、F7Fが傑作機じゃないからでしょう。


グラマンF8Fはアメリカ海軍が開発したレシプロ艦上戦闘機の中でも極めて高性能な機体です。軽量小型の機体にハイパワーのエンジンを搭載し、零戦を代表とする日本機を、あらゆる面で圧倒できると考えられていました。F4FワイルドキャットやF6Fヘルキャットといったグラマン鉄工所の従来製品に比べてはるかに洗練された外観や設計思想のバックには、鹵獲された零戦やドイツ空軍のFw190のそれが参考にされています。戦訓を経て作られている機体であるにも関わらず、開発そのものは海軍ではなくメーカー主導で行われていた…という事情は如何にもアメリカ気質か。パワーや火力だけではなく運動性まで兼ね備えたこの機体、物量だけではなく技術面でもアメリカ航空業界が日本に優越してたことの代表例みたいなものですがどうも知名度が低いことは否めません。そのむかし架空戦記が大ブームでいろんなノベルスで烈風がブイブイ言わせてた頃には「なんでこの手の作品はどいつもこいつもF8Fを無視してるんだろー」とか思ったもんです。若気の至りです…


で、ちょっと前にも書きましたが身の回りで「コルセアvsムスタング論争」が起きた時に、件のコルセア好きな方に「ベアキャットってどうなんですー?」とおたずねしてみたら…



(画像はイメージです)


うん、まあね、結局第二次大戦には間に合わなかったしね。いくら小型ですばしっこくてもマルチロールには向いてないしね、朝鮮戦争じゃあっさり後方に下げられたし実戦で使われたのはインドシナ紛争のフランス空軍とかベトナム戦争の南ベトナム空軍とかロクな勤め先じゃないしね…

性能は良いのに活躍の場に恵まれない、そんな機体こそ正しく「悲運の名機」と呼ばれるべきなのです。


実戦の場で活躍に恵まれなかったとはいえそこは素性も性能も優れた機体ですから、戦後はブルーエンジェルスに使用されたりと活躍しています。カラーグラビアや塗装とマーキングのイラストがネービーブルーばかりで単調なのは仕方が無いところですが、


ベトナム空軍の機体はシルバーの地色で独特の印象です。


文字記事のいくつかは旧作No.94からの再録ですが、鳥養鶴雄氏による技術面の解説は書き下ろしで読み応えのある内容です。第二次大戦のグラマン戦闘機といえばヘルキャットの武骨さ―だけ―が喧伝されがちですが、決してそれだけではないと思わされる。


戦後のF8Fの活躍としてはエアレーサーや速度記録機(レコードブレイカー)等が挙げられます。レーサーとして活躍した機体の数もライバルのP-51やF4Uと比べれば少ない物、それは総生産機数の違いによるものですが、それでもレシプロ飛行機戦闘機の世界最高速度記録、栄光の地位を保持しているのはF8Fから改造されたレーサー“レア・ベア”なのです(と、いいつつこの画像は“コンクェスト1”だったりする)


これ一冊でF8Fに関するほとんどの事象はカバー出来るありがたい内容ではあります。どうしても日本国内では「グラマン」って悪役イメージですけれど、F8Fの手は綺麗なものでもうちょっと人気があってもいいのになーと思うトコロ。

ところで米海軍には「至高のレシプロ戦闘機」ことボーイングXF8Bなんてーのもありまして、いつか「究極vs至高」の対決を、どっか陽の当らないところでやってほしいものでやんす。

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