KKベストセラーズ「語れ!ウルトラ怪獣」

さまざまなジャンルに幅広くコミットするKKベストセラーズのベストムックシリーズNo.44。同シリーズでは特撮関連本も既に幾冊か刊行されていますが、本書は特に「ウルトラ怪獣」について心行くまで語る内容です。

ひとくちに「ウルトラ怪獣」といってもそれはそれは大勢居るもので、総数がどれほどのものか数えた人はいるのでしょうか。ガンダム関連のモビルスーツですら見当がつかない有様なのに、基本的に毎回の話数ごとに出現する怪獣総数や如何に。殊によると仮面ライダーシリーズの怪人たちの方が数は多いかもしれませんが、番組や年代の枠を越えて活躍し、系統立てや系譜を考えることができるのはウルトラ怪獣ならではの魅力でしょう。そんなウルトラ怪獣の魅力を様々な切り口で紹介するこのムック、とてもじゃないが限られたスペースで全部の記事に言及するのはとてもムリだと先に泣き言のようなことを書いておきますが、自分の琴線に触れる角度で紹介していきます。要するに今回はおっさんホイホイです(笑)


しかし「ウルトラQ」関係のスチールのいくつかは総天然色版の物が使用されているのですな。これも時代というものか……


ウルトラ関連本、ウルトラ怪獣関連本というのもこれまた世の類書に果てを見ないほど多数が刊行されていますが、本書は「帰ってきたウルトラマン」からはじまるいわゆる第二次怪獣ブーム以降のコンテンツにチカラを入れた構成のように思えます。「帰ってきたウルトラマン」や「ウルトラマンA」で怪獣・超獣をデザインした井口昭彦氏や「ウルトラマン80」の怪獣や美術全般を手がけた山口修氏のインタビューはどちらも撮影当時の現場の実相を伝える貴重な証言内容。嗚路地なるのデザイン画も数多く掲載され、あらためてそれぞれの時代の怪獣デザインが持つ魅力についていろいろ考えさせられます。インタビューでは特に触れられていないけれど、珊瑚をモチーフにしたベロクロンのデザイン画は乳房からウエスト、股間に向けて絞られていく赤いラインが女性の水着のようで実に興味深いものですね。洋画SFXの影響が直撃していた「80」のころは製作側のリアリズム志向とメーカー側の玩具展開とがしっくり行かなかったというのはまあ、何時の世も変わらないことですけれど、UGMの飛行機がバンダイから持ち込まれたデザインではなく山口氏オリジナルが採用されていたら、本編の方も違った空気になっていたのかも知れないなあ。途中で変更されたUGM基地のデザインとかね。


現場を知る人がどんどん高齢化していくのも現実なので、生の証言を記録するのは実際大事なことでしょう。新マン最終話に登場した「あの」二代目ゼットンの着ぐるみは軽くて動きやすい素材を用い、中に入っている役者のことを考えて造形されたという話にはなるほどはたと膝を打つ。この時期はソフビの怪獣がまだディフォルメ優先な形をしていましたから、ただ一回の撮影だけに使われる(番組制作自体は毎週ある)着ぐるみ製作で何を第一に考えるのかは、現場の作り手と後になってから怪獣図鑑やビデオ映像で喧々諤々するファン層とは相当隔たっているのだろうな。「作り手の立場」というのも役職ごとに相当隔たっているだろうとは容易に推測できるものですけれど。


ワンフェスなどのイベントにもよく招かれる桜井浩子さんをインタビューして、たずねる内容が主に「ウルトラマンレオ」のローランについてだなんて実にロックな記事もあるのだ。「鶴の恩返し」だと言われて出演したら出て来たのは「どっちかというとワニよ、ワニ」ってこの点では作り手側とファン層の思いがひとつになりそうです。いやローラン以外にも「ミラーマン」でのゲスト出演や悪役を演じることなどフジ隊員とはひと味もふた味も違う演技論を語っていて実際面白い。でもやっぱりローランはどう見たってワニ。


ウルトラマンパワード」20周年を記念して一連のパワード怪獣についても大きくページを使っているのも特色です。デザイン画や現地ハリウッド(ハリウッドのどのへんだったんでしょうねえ)での着ぐるみ製作の様子など、どちらかと言えば継子扱いなパワードにも光を当てるもの。本作についても怪獣デザイン担当前田昌弘氏インタビューは面白いもので、成田享画伯に怒られたとか実相寺昭雄監督に怒られたとかそういうエピソードそのものよりも「所詮はファンの二次創作的なものに落ちてしまっている」映像を作る、そういう作品でしかウルトラが作れなかった時代があると、怪獣の造形やデザイン一つにしてもそれぞれ時代性が反映されているものですね。


バルタン星人は言うに及ばずレッドキングゴモラ、キングジョーなど人気のある怪獣は時代を超えてなんどもリメイクされています。そこには決して「ファンの二次創作的なもの」に止まらない魅力、怪獣という存在を社会がどのように受容してきたかの変遷が記録されているはずで、懐古趣味だけでは片づけられない発展性もあるでしょう。「大怪獣バトル」をきっかけとして現在では「大怪獣ラッシュ」が、ウルトラ怪獣や宇宙人にゲームキャラとしてのバリエーション展開とキャラクター性を付加し、それがまた新しい映像作品へとつながっていくと、そういうわけです。


……そういうわけですから、そろそろ誰か「ジラース」を再デザインしてくれまいか。あれも非常に魅力的なデザインに関わらず日の当たらない怪獣で、いまこそ「84年版ジラース」や「ミレニアムジラース」「レジェンダリージラース」とか考えただけでも訴訟が危ない。


平成シリーズや最近の劇場版に登場する怪獣たちについても多くのページが割かれているのに本稿では古めの話ばかり取り上げてしまったことをお詫びします。古い特撮の怪獣と撮影風景は現代のそれとは相当隔絶したものですが、それでも電飾による異形さの演出などは「パシフック・リム」やレジェンダリーゴジラのムートーなど、CGの怪獣にも受け継がれるなにか精髄のようなものがあると感じます。


ほんでこの本何がいいって最後のページに「サイゴ」が載ってるのよ。これだけでオジサンもう涙、ナミダなのよ……


(意味のわからぬ者は駄菓子屋に行って「ワールドスタンプブック 怪獣の世界」を買ってくるべし)

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