新紀元社「プラモデル徹底工作 可動戦車模型の作り方」

新紀元社は戦車模型とその関連本をいくつも出版していますが、本書はいささか毛色の異なる、「戦車模型をRC化する」ための改造指南の一冊です。製作・執筆に当たったのは桧木利弘ならびに下村一晴の両氏で、模型ファンがインターネットを活用し始めた1990年代からこのジャンルを牽引してきた大ベテラン。


本書の構成は主に3つの作例に内容を絞って初級・中級・上級のそれぞれの階梯で可動化の改造、ギミックの盛り込みなどをステップアップ的に解説していくものです。素材に使われているのはタミヤの1/35MMシリーズからのセレクトで、作りやすさや趣味的な面もありましょうが、ともかく妥当なチョイスでしょう


初級編で製作されるのはJS-2重戦車。これにタミヤの1/35RCタンクシリーズパンサーG型のユニットを積載してラジコン化するものです。なるほど「初級」という感じを受けます。


とはいえパンサーとJS-2では中戦車であるパンサーのほうがJS-2重戦車より大きいというのはよく知られた事実。狭いJS-2の車内にRCシステムを組み込んでいく作業がいちばんのキモと言えましょうか。「スケールモデルのRC化は、極言すればスペースとの戦いです」とは本記事の冒頭に掲げられた至言。


モデルカステンの連結可動キャタピラをピアノ線で軸打ちしたり、サスペンション可動をやはりピアノ線を用いて弾性をもたせるなど、この分野では基本とも言うべき方法が執られています。作例を3つに限っているからこそ、ひとつひとつの記事には多くページが割り振られ、製作途中の写真も豊富に掲載されています。RC化に限らず「治具」って大事だなあとあらためて思ったり。


動作に関係しない箇所とはいえ動力ユニットや電池ボックスに刃を入れてうまく内部に収めていくのはいささか勇気のいる行為かもしれません。「ソ連の戦車は狭くて大変」という話を、ある意味で実感できるような作業でありましょうか。


砲塔旋回のみならず砲口の発光やサウンドシステムのスピーカーなど全てのギミックを盛り込みつつ、スケールモデルとしての鑑賞にも十分対応できる高い完成度を保っての製作は初級のあとに「?」と銘打ちたくなるハイレベル。そうね、新紀元社の「プラモデル徹底工作」シリーズは文字通り「徹底」的な内容なのでしたね。


中級編ではM3スチュアート軽戦車を作ります。


ちょっと待って。


スケールモデルのRC化は、極言すればスペースとの戦いです」って読んだ気がしますが何故にこんな小さな戦車をッ!?という、いささかはしたない驚きの声を上げてしまったことを告白せねばなりますまい。タミヤのM3スチュアートはよく知られるように走行性を高めるためにベルトキャタピラの細部を実物とは異なるアレンジで立体化しつつ、さりとて特にシングルもリモコンも出やしなかったという一種いわくつきなプラモでありますが、敢えてそれを可動化してしまうあたりが業の深いことであります。


こちらの作例では当然流用できるタミヤ製のギアボックスなど無いので自作。マイクロエースの1/48リモコン戦車から流用したギアを狭い車内で確実に作動させるべく一部削ったり車体底面を開口して「逃げ」を作ったりなど初級編より一層難度の高い作業が施工されています。「中級コースですよ」と聞かされて「嘘でしょ?」と答えるのは学生時代のスキー場に似ている。


そして自作基盤を使用した赤外線コントロールと対戦バトル用のシステムを実装って中級のあとに「!?」と書きたくなるぞ。後輩にダマされて上級コースにつれてこられた新米スキーヤーのような気分だ……


砲塔旋回・砲身上下作動のギミックは当然のように実装して、そして前後の灯火も発光と小さな車体に驚くほどのギミックです。


「驚き」はRC戦車を作る際のひとつのキーワードになるかも知れません。ただのプラモデルに見えて実は動く、小さな戦車に見えて大きなギミックを備える。見ている人を驚かせるような動きを魅せられたら楽しいでしょうね。昔日のホビーショーでRPMのミーネンロイマーがRC化されたのを見たときはそれはそれは驚かされたものでして、そういえばあれもひのき氏が作られたものでしたなあ……


…MENGモデルのとか、どうでしょうか?(チラッチラッ)


そして上級編では満を持してパンサーです。無論RCモデルも発売されていますがそこはもちろんディスプレイモデルを可動化に改造します。ここまでの2本の記事を読んでくれば明らかなのですが、パンサーの内部は広いです。なんか容積の感覚がゲシュタルト崩壊してそうだが気にするな。その広い空間を活かして様々なギミックやシステムが内蔵されている様は!!

……それは本文をお読みください。さすがに全部は載せないのです(笑)


全体を通して非常にハイレベルな製作内容なので、これらの作例を直ちに模倣できるというものでも無さそうではありますが、製作記事のあちこちにはRC戦車製作で注意すべきポイントがコラム的にまとめられています。我こそはこの分野を極めて行こうと思われる方々ならば必読の、「1/35の戦車プラモデルをラジコン化する手法に特化し、これだけ詳しく書いた書籍」は他に類を見ない一冊でしょう。もう少し手軽に楽しみたい向きには、八重洲出版「RCで楽しむ ガールズ & パンツァー」がよいかと思われます。こっちはすべりやすいゲレンデです(笑)


巻末には桧木氏製作による作品集のページもあり、読者の目を楽しませてくれます。戦車プラモのRC化、特に本書で提示されたような改造作業は単に技術だけでなく予算の観点からでも高いレベルが要求されるものですが、例えばタミヤの菱形戦車マーク4が当初から走行ギミック装備であったりとRC化し易い製品もありますから、この先も戦車模型の楽しみ方がいろいろな方向に広がってほしいものですね。

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