光人社「海兵隊コルセア空戦記」

太平洋戦争中敵機28機撃墜のスコアを持つアメリカ海兵隊エースパイロット、議会名誉勲章受章者グレゴリー・ボイントン少佐(当時)による回想録です。

などと書くと太平洋島嶼地域でばったばったとコルセアおおあばれなお話しを誰しも想像しそうなものですが、空中戦そのものの記述は、実は控えめだったりします。これまあ、どっちかというと(営業的な意味も含めて)邦題のセンスの問題なんだけれど、本書の中身は若干トウが立った年齢でいささか不品行なひとりのベテランパイロットが、太平洋戦争の期間どのように生きてたかを振り返る文字通りの回想で、空中戦より酒飲んでる話の方が面白かった(個人の感想です)

原題“BAA BAA BLACK SHEEP”はガダルカナルでボイントン少佐が率いた第214飛行中隊「ブラックシープ」にちなむものですが(以前ハセガワからキットが出てました)、そこに至るまでの過程、海兵隊の所属を離れて中国大陸でシェンノートの「フライング・タイガース」に参加していた時期の記述などは胡散臭く且つユーモラスなエピソードもいろいろあって楽しいものです。義勇空軍に参加するためパイロット達が宣教師に化けて客船に乗り込んだらその船には本物の宣教師が55人の団体で乗り込んでいたので正体即バレとかまるでコメディ映画かと(笑)

大抵この手のパイロット話では事務屋が目の敵にされるのが通例で、本書も例に漏れません。紆余曲折あって漸く海兵隊の現役任務に復帰しガダルカナルに展開しても頭の固い人はどこにでも居るもので、大抵の場合事務屋は中間管理職で問題を解決するには上位指揮官にネジ込むのが手っ取り早いと官僚組織なんてどこもそうだよな。

本書一番の眼目は太平洋戦争当時のアメリカ軍パイロットの撃墜スコア25機の記録更新を果たしたボイントン少佐の空戦記録ではなく、むしろその後に撃墜されて日本軍の捕虜となり、ラバウルから日本本土、大船や大森にあった収容所へと移送されるなかで見えてくる日本と日本人の姿や有り様かな…と、思われます。いい人もいれば、悪い人もいる。自軍(米軍)の空襲であやうく死にかけたり、自分の立場についてしらばっくれてたら故郷の新聞にデカデカと追悼記事が載ってエースパイロットの身分が発覚したりとやっぱり映画みたいな話だな。ラバウルに収容されていた時期に「司令官の宿舎位置を教えないと殺すぞ」いわれて「ここです」と気にくわない事務屋の上司の住み家を示して、結局戦後は無事その気にくわない事務屋の上司と無事再会出来たのは、たぶんいい話なんだろうなと思います。

タイトルとは裏腹な内容だったけどその裏腹が面白かった、なんだか不思議な読後感ですねえ。タミヤの1/32コルセア製作のお供には…どうだろうなあこれ(笑)

にほんブログ村 その他趣味ブログ 模型へ