メディアワークス「小説版ガンパレード・マーチファンブック ビジュアル&ノベルズ」

そもそも「ガンパレード・マーチ」というコンテンツは2000年9月に発売されたプレイステーション用ゲームソフト「高機動幻想ガンパレード・マーチ」に端を発します。もう10年になるんですね。


ゲーム自体当初はマイナーな位置づけだったものが当時のインターネット環境の広がりと相まって口コミ的に人気が広まり、いろいろあって(実際色々あり過ぎるので全部端折りますw)現在またPSP/PS3用にダウンロードサービスで販売され、その際電撃プレイステーション誌が新作ゲームでもないのに結構なボリュームで記事を載せたとかで話題になった息の長いソフトなのです。


いまちょっと公式サイト見てきたら不具合の説明と回避方法が詳細に解説されててニヤけてしまう。昔からバグと噂話が付いて回るゲームだなー。


なにかと電撃と縁の深いガンパレなもので、ノベライズ作品も電撃ゲーム文庫のレーベルで出版されました。いまでこそ下火ですがゲームソフトのノベル化って昔はそれなりに在ったものです。更にめんどもとい複雑なことに同じガンパレードマーチのノベライズでも著者が二人居まして、まずは広崎悠意による「高機動幻想ガンパレードマーチ」が出版されました。この「広崎版」はウォー・シミュレーションとしてのゲーム全体の流れを一冊の小説とする至極まっとうな形の内容で、この1巻で完結しています。しかしブームが続いていたからかまだまだ売れると踏んでのことか、その後執筆者を榊涼介に代えあらためて仕切り直した「ガンパレードマーチ 5121小隊の日常」が刊行。こちらはストーリー的にはゲームのほんの一部を切り取って個々のキャラクターにスポットを当てた小品だったのですが、オリジナルのゲームに在った高い自由度や複雑な人物関係を再現する内容と筆致で好評を博し、以後「榊版」として知られる長寿シリーズとなっていったのです。
 本書はそんな榊版ガンパレシリーズを補完する「小説の解説書」であり、主に九州撤退以後の山口防衛戦と九州への再侵攻・休戦までを描いたいわゆる第二期小説群についての記述がなされていますってほーらもうゲームとは全然違うぞ(笑)

ん?アニメ??なに言ってんですかあなた、あんまり変なこと言うと交通事故に遭いますよ?


「ビジュアル」の副題が示す通り大量のカラーページを使って大量のビジュアルイメージが投入されているのだけれど、もっとも情報量の多いのは地図と戦闘詳報だったりします。小説本編は九州・中国地方の実在の地名、道路や鉄道線路がいくつも出てくる内容で、これが実際の戦記文学などであれば地図や図版を用いて記述を補助するものですけれど、いかんせんシリーズの性格上なかなかそうもいかなくて、刊行当時にイラストよりも地図よこせって読者層に言われたライトノベルなんて榊ガンパレぐらいのものですな。


もちろんそれを良しとするほどに、榊版ガンパレライトノベルとしては他になかなか例を見ないほどハードでヘビーな戦争物だった訳です。九州奪還で第三師団と戦車第三師団のふたつが長途侵攻するのは旧日本軍の大陸打通作戦を元ネタにしているからなんだな。学徒動員がテーマなことはゲーム以来の設定ですが、東北の兵隊は頑強とか大阪の兵隊は賢いとか郷土連隊の色合いがキャラの設定や著述の細部に反映されたりで個人的な話をしてしまうとそこらへんの凡百な「架空戦記」より余程おもしれー本土決戦小説ですよ?


むろん地図ばかりでは本が売れるものでもない訳で、登場人物のイラストも多数収録。ゲームの段階で人物の多い作品だったのにシリーズ長期化につれ小説オリジナルキャラクターが多数登場するのも榊版の特徴で、5121小隊のメンバーがどんどん凄腕揃いのチート集団になっていくなかこれら一般の、普通の人々が戦争の泥臭さや下部構造を担っていたことが本シリーズを末長く愛されるものにした理由の一つかと。


5121小隊メンバーのイラストは本編でも着用するエピソードのあったコスプレで、ああそういえば古参兵で大陸帰還組で鬼軍曹な若宮くんはまだ生後6年のクローン培養体だったよなーとこの世界の暗部を思い出して激しく腹筋が痛む。


シリーズ後半では一新される人型戦車、元々は「ガンパレード・オーケストラ」に登場する栄光号や光輝号がガンオケのカラフルなのとは違って迷彩塗装が施されてて実にイイ感じだ。(同著者によるガンオケの小説も刊行されていますが、本書では扱いません)


ゲームのオープニングムービーでちらっとだけ映り、以後あらゆるメディアでまったく触れられてこなかった士魂号各機のパーソナルマークがしっかり描かれていて、そこは大変にうれしいところであります。

そして「&ノベルズ」ともあるように短編小説が都合7本書下ろしで収録されてます。これらは文庫化されてないんでここだけのもの、内容はまあ良くも悪くも番外編なのですが、


実はこのファンブックが出た後もシリーズは続いたので、橋渡し的には読んでおいたほうが何かと都合がよい。

どちらかというと10年続いたシリーズ読者へ向けての御褒美的な内容ですが、PSPのDLではじめてガンパレ知って、じゃあノベライズにも手を出して見ようとする方々へのガイドブックとしても機能するかも知れません。

もっとも、いま現在このシリーズを初巻から手に入れることができるのか、それはよく知らない…