カマド出版「日本陸軍の戦車」

はじめて刊行のアナウンスを聞いてからしばらく時間が経ち、漸く発売されてから一週間ほど過ぎましたので筋金入り日本戦車ファンの皆様ならば既に入手済みかと思えるマストバイな一冊です。タイトル通り旧日本陸軍の「戦車」に的を絞った本で、自走砲/砲戦車やその他の機甲化器材については触れられていません。

旧軍戦車本というものもこれまでいろいろ読んで来ましたが、本書の特色はボリュームの半分近くを八九式中戦車への解説に割いていることでしょう。雑誌の特集記事ならいざ知らず、単行本でここまで八九式に重点を置いた本ってちょっと覚えがありません。大抵の場合は九七式中戦車チハが主体で「前菜」みたいな扱いが多いイ号ですが、本書では最初からメインディッシュで登場です。


タイミング的にはやっぱりアーマーモデリング誌のマガジンキットを意識しない訳にはいかないでしょう、製作に当たってはたいへん良い資料になるかと思われます。実を言うとファインモールドさんから「八九式中戦車乙」が出ると聞いた当所、昔のAM誌で「八九式中戦車の甲/乙は外観からは判断が出来ない」旨の記述をまさにFM社の鈴木社長の執筆記事で目にした記憶があってキット名称については若干訝しげに思っていたのですが、本書を読んで疑念は氷解しました。八九式戦車の甲/乙は外観から判断が出来るまでに日本軍戦車の研究は進んでいて、それを踏まえての「乙」立体化である、と。


なぜ外観の違いが形式の違いにつながるのか、それは内部構造が違っているからです。そのことを障汢ラ義之画伯の素晴らしいイラスト(多数収録!)と古是三春氏の丁寧な解説文から容易く理解できる、とても勉強になる内容なのです。


菱形戦車の輸入から始まる日本軍戦車の戦史・開発史的な面はどうしたってどこも同じような内容になってしまうものですが、本書では(個人的に、ですが)初見の写真も多く、類書をお持ちの方でも必ずや新しい知見が得られるかと思われます。


恥ずかしながら九一式車積軽機関銃が分離型弾倉を使用する構造になってたとはついぞ知りませんでした。固定式弾倉で開発された十一年式軽機関銃にわざわざこんな改造を加えているとわなんというバkあーいや、他国に類を見ない本邦独特の創意工夫でアリマス!∠(゚Д゚


八九式が多くのページを占めている分、他の戦車についての記述は若干物足りなさを感じないこともないのですが、それでも近年の研究に基づくあらたな発見、今では到底見学できない土浦駐屯地の三式中戦車内部写真、九七式中戦車の車載無線機など見どころは多くあります。ここで全部は見せないのです。


そして戦後の更生戦車、ブルドーザーに生まれ変わった九七式について、改装から復興現場での運用、整備の実態や運用の限界までコラム記事で纏められています。これもちょっと、他所では目にしないような内容で、この本は正しく旧日本陸軍戦車の「最初から最後まで」を記述した一冊だと言えましょう。


ところで、加登川幸太郎の「帝国陸軍機甲部隊」は何処かが復刊してくれないもんでしょうかね?


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