大日本絵画「松本州平のヒコーキ模型道楽」

スケールアヴィエーション誌に連載記事「改造しちゃアカン リターンズ!」に発表された作例を中心に再構成された、ベテランモデラー松本州平氏の個人作品集です。非常に長く業界に関わってこられた方ですが、一冊の本に作品をまとめるのはこれが初めてとのことでいささか意外。

ページを開いて感じるのはとても「綺麗な」本だということです。スケールアヴィエーション誌の記事は屋外撮影もスタジオでの撮影もどちらも非常に美しいフォトを掲載していますが、より大判の版型と見開きを多用して再配置されたこれらのヒコーキ模型作例は目に優しく、制作途中の解説も読み易いレイアウトとなっています。冒頭から数多く収録された第一次世界大戦の機体もまた、現代の機体を見慣れた我々の目からすれば、ひとつの美しい工芸品のようにも思えます。


再録だけでなく新規作例も有り、ウイングナットウイングスのフォッカーD.VIIは1/32スケールというラージサイズの情景のなかに様々な要素が盛り込まれていて、エアモデラーのみならず様々なジャンルの模型好きに訴求するものでしょう。実際、普段は飛行機作らない人でも十分楽しめる書籍ではないかと、そんなふうに感じるのはどの作例も非常に「楽しそう」にみえるからでしょうか。


レベルの1/72B-17Fは機体全体にびっしりと入った凸モールドのリベットをはっきり見せる、キットの素性を存分に活かしたモデルとなっています。実機と比べた縮尺表現としてはオーバースケールなのかも知れませんが、この大きさの「ひとつの模型」としては存在感に溢れたこれもまた工芸品的なディティールなのかも知れませんね。さすがに古いキットなので相当手を入れてる――というよりほとんどの作品にかなり手が加わってます――ので、改造しちゃアカンすなわち素組みということではないのですな。「ディティールアップ」と「改造」の差はどこにあるのか、ご本人も「ほんとうはもうけっこうどっちでもええ」と仰られていますが、この辺の空気は松本州平氏がライターデビューされた頃の、特にAFVモデルにあった、箱開けたらまずダメ出しから入るような時代を知っていると理解しやすいかな?いや知らなくてもいいと思うのですけれど。


粗探しのためにプラモデルを作るのではなく、キットの良さとそれをより引き立たせるための細部工作と塗装やフィギュアを絡めて情景と感情すなわち情感を想像させる作風、そういう力の入れどころが、例え門外漢が見ている分でも楽しそうに映る理由なのでしょう。


機体選定がどういった基準に拠るのかはわかりませんが(そもそも基準があるのかもわかりませんが)、カタチの面白さは大きいように思います。機体スペックであるとか戦史上に占める活躍の度合いなのではなく、これもやはり「ひとつの模型」としての面白さを重視しているのではないか・・・と、そんな風にも感じます。九四式と九五式、二種の水上偵察機は1/72スケールで利根の艦上クレーン(!)を製作して面白い模型になってます。見た目の面白さでアピールするのは大切で、例えば模型にも軍事にも理解の無いような家族に共感を求めるときにすごく大事。むろん自分自身が一般人と同じ目線の「面白さ」を保持しているのは前提で……


斯界の第一人者が長年培ってきた技術やセンスで作り上げた作品群を目にしていると、この趣味を続けるのに楽しさは大事なのだろうとそんなことも思います。修行を苦行にしないこと、かな。そんな理屈は放っておいてとにかくシュペール・エタンダールの美しさ、カタチの面白さを存分に愛でるページだけでも十分元は取れる内容でああ他人に理解なんかされなくても自分だけが面白ければそれでいいやという気分である。これから毎日コンテナ船を沈めようぜ!


このブログのスタンスとしては門戸を広げること、ハードルの低いところを見せて新しい人にプラモデルを作ってもらおうと試みることがひとつあるのですが(実はあるんですよそーゆーコンセプトが)、いかに末永く老後を楽しむかという視点も大事だな……などと。巻末にはおまけ的に古いモデルグラフィックス誌に載った松本州平氏の記事やコーナーも一部収録されていますが、いつの時代も楽しそうでエエなぁと思わされるのです。


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