エルフィンナイツプロジェクト「Blaster読本 01」

リドリー・スコット監督作品、SF映画「ブレードランナー」に登場する、いわゆるデッカードブラスターの研究本です。

オフセット同人誌・本文モノクロの体裁ですが表紙と口絵は綺麗なカラー印刷。往年の「Gun」誌を思わせる上品なフォトは、SF映画に登場する架空の銃とはいえこの銃のデザインやディティールが現実と見まごうリアリティを持っていること、撮影に使用されたレプリカモデルが実物と遜色ない存在感を持っていることの証明ともいえるでしょう。


本書の主な内容は長年この銃とこの映画を研究してきた高木亮介氏によるレプリカ、通称「高木式ブラスター」の紹介です。現在では実際の撮影に使用されたプロップ(アクション用ではない、アップ撮影用に電飾ギミック等を完備した“ヒーロープロップ”と呼ばれるもの)も公開され、そのデータを用いて極めて再現性の高いレプリカモデルを製作することが可能となりました。


高木式ブラスター、「現在の」最新モデルの特徴はプロップ同様チャターアームズ社のリボルバー「ブルドック」をフレーム・シリンダーを芯にスタイヤー・マンリッヘルライフルのレシーバーを覆い被せた構造を再現していることでしょう。このモデルはレジン・金属素材複合キットとしてエルフィンナイツプロジェクトから発売され、先日のワンダーフェスティバルで購入された方もいらっしゃるかと。一般的なガレージキットと違って銃刀法の公的規制が掛かってくるのはモデルガン業界特有の事情で、金属素材を使用して強度や再現性を担保しつつ、法律の枠内に納まる構造にせねばならない。そんな難事も窺うことが出来ます。


このデッカードブラスターの発砲シーンはそのユニークな外観とリドリー・スコット監督の演出とも相まって「ブレードランナー」本編映像のなかでも強く印象に残ります。およそSF映画に登場する架空の銃器の中で、ここまで広く愛好された一丁は前例が無ければ後継も無い、まさしく空前絶後な存在では無いでしょうか。特にファン層だけでなくクリエイター達にもインパクトを与えたようで、80年代の日本のアニメやマンガなどではよくこの銃をモチーフにした銃器がこっそり(あるいはおおっぴらに)登場していました。本書ではそのような派生型についても把握されています。


巻末にはやや「高木式ブラスターの黒歴史」とやや自嘲的な章題でこれまで高木氏が製作してきたモデルが掲載されています。まだ資料の少なかった時代、映像ソフトがVHSで一万数千円もした時代からの一種赤裸々な記録には感銘を受けます。ひとつの銃を繰り返し何度もカタチにしてきたことで洗練されたいまがある。なんだか恐竜研究の進歩具合を見るかのようだ……


まだ資料が少なかった時代、いまほど簡単に各種のデータに接することが出来なかった時代から、多くのモデラーあるいはガレージキットメーカーからこのブラスターのレプリカは発売されてきました。それらを一同に介した「ブラスター名鑑」の章はかなり見ごたえのある内容で資料的価値も高いものです。ガレージキット文化の保存、特に黎明期のそれは全貌を捕えることは到底不可能でしょうから、1アイテムにとどまるものとはいえ複数メーカーの製品を把握できるのは貴重。


アドベンやOZショップの製品は80年代ホビージャパンのモノクロ広告ページによく掲載されていたので記憶に残っている方も多いのではないでしょうか?発売元が小さなメーカーだったので原稿サイズも小さく、またブレードランナーに特有の版権問題の不明瞭さから製品名やキット紹介がいささか擬装じみたものになっていたりと、この時代のブラスターは妙にアングラな印象が残るアイテムでした。上に図面を上げたグッドビレッジのキットって結局発売されなかったのか、広告見た記憶はあるのですが……


もっとも、この時期のブラスターに関する記憶がやたらとアングラじみた思い出になるのは、アドベンのキットが「デッサンギャル」と一緒に広告されていたからかもしれません(笑)


そして現在では日本のみならず欧米圏においても、広く公開された様々な資料に基づく、正確な設計が成されたレプリカモデルが多く発売されています。単に形状のみならず可動ギミックも盛り込んだそれらは実銃と見紛うばかりの出来栄えで……

アメリカのトイガン規制とこの種のレプリカモデルってどういう住み分けしてるんでしょうか?わたし、気になります!(主に通関的な意味で)


モデルガンのチーフスペシャルをブラスターに改造するパーツ類やホルスターなど周辺の製品、模型誌やガン雑誌に掲載された作品など多面的な構成を持つ本書、同人誌とはいえ商業レベルの記事に十分なり得る内容です。この名も無き一丁の銃にどれほど多くの情熱が傾けられたか、四半世紀前からどっぷり漬かって「二つで十分ですよ」なあなたも、むしろ今この世界に足を踏み入れ「四つくれ」なキミにも、ブレードランナーの魅力を伝える研究本。


そんな高木式ブラスターですが、このたびダイキ工業からABS/PVC素材による完成品が発売されます。高木式ブラスターの完成品としては発火も可能なモデルが既にCAWから発売されていますが、軽量かつ安価なレプリカとしてガンマニアよりはもうちょっと裾野の広い、コスプレ撮影などにも対応できそうな一品。これを片手にロングコート羽織って新宿歌舞伎町を走り抜ければ気分は2019年ロサンゼルス!なんて行為はストリッパーのお姉さんを追っかけまわすまでもなく警察あるいは自営業の方に捕まるので絶対にやめよう。

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うむ、この記事かいてたら無性にブレードランナー見直したくなったのでトレーラー映像貼ってみる。90年代は「サイレントメビウス」からこっちに来る人も多かったけど、いまなら「ニンジャスレイヤー」のヘッズを取り込めそうな気もする。