モデルアート「艦船模型スペシャル 49 」

特集は「千歳」型水上機母艦です。世界の近代海軍史を紐解けば「水上機母艦」という存在は決して珍しいものではありませんが、太平洋戦争の時期にこれを大規模に建造・運用したのは旧日本海軍をおいて他にはありません。

そこには種々の海軍軍縮条約で仮想敵国に対し劣勢を強いられた日本の外交事情と、そこから生まれた日本海軍独特のドクトリンが存在します。ともあれ艦船模型業界ではユニークながらもマイナーな存在の艦種であり、ウォーターラインが四社体制だったころから青島文化教材社の独壇場ではある(空母改装された千歳・千代田はピットロードのキットを使用)


当初から空母への転用を見越して艦隊中央に設置されたテーブルのような機銃甲板、秘匿兵器「特殊潜航艇」を積載するため不釣り合いな大型クレーンと、なにかと謎と秘密を抱えたミステリアスな魅力を持つフネであり、諸外国の単なる水上機運搬船とは一線を画す艦であります。擬人化・薄い本の折には是非そのような要素もってそういう話を振るのはいかがなものかと思われる方も多いことでしょうが、なにしろ製作記事本文に「いざ!『ちとちよ』姉妹製作開始!」って書いてあるからいいじゃないか。


艦スぺでは以前2006年発行のNo.22で一度水上機母艦を特集に取り上げています。それを所持している長年の読者なら今回は必要無しかといえばさにあらず。アオシマ最新のリニューアル版キットを徹底ディティールアップする、今現在の最先端レビューとなっています。


特に今回の作例で使用されているヤマシタホビーの「12.7センチ89式高角砲後期型セット」は千歳型以外にも幅広く利用可能な汎用パーツですから、本書のレビュー記事は有用と言えます。


千歳、千代田に加えて準同型艦の「瑞穂」はアオシマのウォーターライン、ミッドウェー海戦後の水上機母艦不足を受けて給油艦に航空兵装を追加改装した「速吸」はフロッグフットのレジンモデルを紹介。


飛行艇母艦として名高い「秋津洲」、輸送船改装の特設水上機母艦「君川丸」はそれぞれピットロードのベテランキットを製作しています。君川丸は現在店頭在庫のみの絶版キットでありますが、設計ミスが指摘されている船体部分の延長工作その他、実際の製作の参考となる記述の多い記事です。


実艦のフォトファイルは瑞穂の初公開資料含めて様々な角度から千歳型の魅力を捉えています。軽巡洋艦のような精悍なつくりの艦橋構造はなかなかに格好良いものですね。


やはりテーブル状の天蓋、機銃甲板には独特な魅力があります。実際に空母改装された際には撤去されて完全新規の飛行甲板が設置されたとのことですが……。本艦を含めた日本海軍水上機母艦の開発経緯と運用、戦歴等については衣島尚一氏による解説記事が付されているのはいつもの通り。


空母改装後の注目点としては「千歳」のレイテ沖海戦時における迷彩塗装が目を引くところでしょうか。繋留迷彩のまま囮艦隊の任を担って出撃した悲劇性とも相まって、戦略変移と戦局の変転に忙殺された本艦の最期を象徴するようなある種乱雑なパターンは、幸い小型の艦型を活かして1/700スケール実物大の塗装図が折り込み無しのフルカラーで掲載されています。


当ブログの書評記事で取り上げている書籍は発売より少し日を置いたものが多いのですが、今このタイミングで千歳と五十鈴がツーショットで並んでる写真を見たのはなんというかな、シンクロニシティというやつでな。いまごろは歯ぎしりしている「提督」も多いのではなかろうかあーいや、必要なのは水上機母艦でしたか今度の任務には。



特集以外の製作記事ではラージスケールアイテムでハセガワ1/450の新キット大和とトランペッター1/350の重巡インデペンデンスが紹介されています。どちらも太平洋戦争末期の海戦エピソードを飾る艦です。


大和はキットパーツの素生を活かし、エアブラシも使わずに缶スプレーと筆塗りで大型モデルでも気軽に手を出せる仕上げ、インデペンデンスの方はキット付属のエッチングに加えて各社ディティールアップパーツを潤沢に使用と対照的な記事内容です。大型アイテムラッシュも一段落した感はありますし、モデラー各氏それぞれに見合った様々なスタイルが提示されてしかるべきということかな。


その他掲載されているのはピットロード1/350護衛艦「たかなみ」「おおなみ」を用いた満艦飾の繋留ジオラマ(フジテレビCS番組「プラモつくろうcustom」で製作されたもの)、連載記事「紀元二千六百年特別観艦式を作ろう!」は標的艦[摂津」や徴用船、「ラベールアーカイブス」はモノグラム製レイヒ級ミサイル巡洋艦などとなっています。


ミラージュホビー1/400の日本海軍「哨戒艇第102号」製作記事と米海軍駆逐艦スチュワートが辿った数奇な運命を記した「奇妙な船の物語」はマイナー艦好きにとってはメインディッシュの味わいでしょう。うむ、艦娘化するなら金髪碧眼片言ロリといったところか(お前は何を言ってるんだ)

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