ファインモールド「1/350 帝国海軍駆逐艦 天霧」

ファインモールド製1/350艦船模型、シリーズNo.としては第一弾「綾波」に次ぐ02になっていますが、間にスポット生産の「敷波」を挟んでいるので実質的には第三弾のキットです。

本艦は吹雪型駆逐艦(通称「特型駆逐艦)の15番艦、3群に分けられる特型の中では第IIグループの5番艦となる存在です。特型はワシントン海軍軍備条約における補助艦艇保有制限を受けて開発された艦種で、英米に比して6割の制限を受けた巡洋艦の不足を補うべく重武装且つ高速性能を持つ画期的な駆逐艦として設計されました。



量の不足を質で補う日本海軍特有の設計思想を具体化したような特型は他国の同クラス艦艇に比べて高い戦闘能力を保持しましたが、軽量な船体に重武装を施した艦艇としてのバランスの悪さはいわゆる「第四艦隊事件」で脆弱さを露呈します。



その後日本海軍の駆逐艦は初春型を経て白露型など武装を減らして船体強度を高めた形式に移行し、対米開戦時には特型はやや旧式の部類に属する駆逐艦となり補助的な任務に就くことが多かったようです。が、そんな事情とは無関係にこのファインモールド製1/350スケール特型駆逐艦シリーズは最新の技術で作られた模型業界の最先端で戦える存在です。




装備品関係は艦艇ディティールアップパーツとして素晴らしい精度をもつ「ナノ・ドレッド」シリーズのランナーが当初から封入されています。多少余剰が出るのでお手持ちの他社キットにパーツ流用するも可であります。


また本キットにはアオシマ製のアメリカ海軍PT-109魚雷艇のパーツが含まれています。他メーカーとのコラボレーションとしては陸物分野で以前からタミヤと共同したものがありましたが艦船ではこれが初めてかな?なかなか面白い試みなのでいろいろ広がってほしいものです。


甲板上の魚雷運搬軌条や煙突部分の格子などキレのあるモールドが各パーツに施されています。

ところで「綾波」「敷波」と来たら次は「まきなみ」だろうと誰もが考えたと思いますが、残念ながら駆逐艦「巻波」は夕雲型でタイプが違うんですなー。そして「ほらき」って名前の軍艦はそもそも存在しませんかそうですか。


ナノ・ドレッドの25ミリ連装機銃部分。オールプラ製で精密なモールドを再現した同シリーズは実に革新的で、金属素材や瞬間接着剤が不得手な方でも精度の高いパーツを自在に使用することができます。これからの艦船模型はこれが日常なの。でしょう…


近年の1/350艦船模型スタンダードでフルハル/ウォーターラインのいずれかを選択可能です。今回フルハルで組んで行きますが、ここは声を大にして言いたい!フルハルで作る場合はまず真っ先に台座から組み立てるべきです。その方が断然作業効率が良いです。正直誰でも知ってることでしょうけれど、本製品に限らず大抵のメーカーの説明書では台座の組み立てを最後の工程に持ってきてるので、なんだかそれは不思議いや不可解でさえ…


内桁となるパーツの中で艦首部分のC2パーツだけには水密扉のモールドがあります。前後ともにあるので裏表関係なく組んで良い部分なのですが…


押し出しピン跡を前面に向けた方が何かと安心だったのでした OTL 完成しちゃうとほとんど見えなくなる箇所なんですけれど、ひとえに精神的な問題です…


大型艦と比べて細身の艦影、艦体中央付近の大部分を占める機関部など組み立て過程の途中でも駆逐艦らしい魅力を楽しめます。実際に艤装をやってるような感覚で、やっぱり最初に台座作るべきですようむうむ。


特型の開発時期には魚雷発射管にまだ急速次発装填装置が装備されていないので、吊り上げクレーン部分などが仰々しい外見でそこも魅力。


クリアー成形されている110cm探照灯はアクセントでシルバーを置いてみました。よりもその後方にある九一式方位測定空中線の円形パーツがそれはそれは簡単に!綺麗に!組み立てられます。以前エッチングでとんでもない苦労した記憶があるのでああもうナノ最高なの。


特型駆逐艦は羅針艦橋に巡洋艦並みの装甲天蓋を導入しています。仕上げる際には塗装されるべきものですが、敢えて「模型」として内部を魅せる処理もいいかなと思ったり。また上部艦橋はキャンバスカバーと折り戸式防風スクリーンを完備した状態にも組むことが可能です。


船首楼と一体化して艦体前方に位置する艦橋は力強いシルエットを形成します。乾舷を高く設定し巡洋艦並みの凌波性を持たせる、特型の船体構造は以後の一等駆逐艦に受け継がれていきます。特型自体はこの部分脆弱なつくりで、第四艦隊事件ではポッキリ折れちゃった艦が出たんで急遽改善工事…


50口径三年式12サンチ7連装砲、砲身は仰角を選択可能です。特型駆逐艦のII期は75度の高仰角を持ち高角砲としても使用可能なB型砲を装備しているのが特徴ですが、本キットはやはり性能改善後のB型改造砲、仰角は55度までに引き下げられ照準室形状も竣工当初とは異なる形状です。またB型砲は左右独立した砲架上に設置されているので砲身パーツの角度を左右で違えてもよし。


画面右側に写っている構造物は後部操舵装置です。船体各部の機能を理解しながら組み立てられるのはラージスケールならではの醍醐味でしょう。グランプリ出版の「軍艦メカ図鑑 日本の駆逐艦」一冊手元にあると実に重宝しますねえ、良い本ですよう。


煙突手前で防盾も無しに25ミリ連装機銃操作すんのは男らしいよなーなどと、ひとの動きを推測できるのも面白いものです。コレクション性を考えたら1/700スケールが一般的なんでしょうがフネそのものの魅力を知るにはデカイ方が楽しいなあ。前後の煙突の周囲をお椀のように囲んでいるのはユニークな形状の通風口であるとふむふむ。


日本の軍艦作る際に艦首の菊花章を最後に取り付けると魂入れ込んでるみたいで盛り上がるんですけど、あいにくと駆逐艦は「軍艦」ではなく「艦艇」の類なんで菊花章がありませぬ。故に工程の順番を無視してスクリュー取り付けを最後にまわしてみましたが…取り付け忘れたまま「おー完成じゃあ」とか盛り上がってたのは軍事機密である。


完成した「天霧」の全体像。いくつかバリがありましたけれどカッター一本で簡単に処理できる程のものでした。ラージスケールとはいえ手頃な大きさ、アンカーチェーンを除けばすべてプラ製のパーツとこのスケールの艦船模型に初めて手を出してみるのにぴったりな一隻かと。


近代的な外観と強力な武装の配置は実に模型映えします。条約型の重巡洋艦と共通するような雰囲気もどこかにあるのでしょうな。


一番砲塔は波浪に抗堪するため補強フレームを追加したパーツを使用します。艦橋直前のデッキで13ミリ機銃撃つ係の苦労は想像を絶しますね(((( ;゚Д゚)))


特型が使用した九○式魚雷は高名な酸素魚雷でこそありませんが、それでも片舷斉射9本は強力な雷装です。有明型以降は発射管数を減らしていったので特型(および初春型)は日本の駆逐艦としては「島風」の片舷斉射15本に次ぐ数字を誇っています。


そんな特型駆逐艦ですが、太平洋戦争中は主に第一艦隊(戦艦部隊)隷下の水雷戦隊に属していました。夜戦部隊として活躍を期待されていたのは第二艦隊(重巡洋艦部隊)所属の水雷戦隊で、戦艦護衛の任務は駆逐艦の働き口としては第一線とは言えないでしょう。本艦「天霧」も高い戦果を挙げたとはなかなか言えないのですが、とある事件により非常に有名なフネとなりました。こと特型駆逐艦のなかでもアメリカじゃ一番有名じゃあるまいか?


その理由はこれ、魚雷艇PT-109。アオシマ製のキットは単なるオマケの域を越えて良い出来です。いや実際単品売りもありますけれど。


天霧同様フルハル/WLを選択可能です。船体上下の合わせが若干宜しくなかったので、先にがっちり船体を組みあげてから装備品を接着していく方が良いだろうと後の祭りで思います。


プロポーション・ディティールともに申し分ないので、数を揃えてスリガオ海峡夜戦で西村艦隊に襲いかかる魚雷艇部隊の情景とかどうでしょうか。


でもやっぱりこの、「危うく将来のアメリカ大統領が真っ二つにされるとこだった」ジョン・F・ケネディ中尉の情景を作るべきでありましょう。「あやうく将来のアメリカ大統領が食べられてしまうところだった」ブッシュ父の事例もありますし、アメリカ大統領になるのも大変ですね。


戦果というより「事故」の面が大きかった為でもあるのでしょうが、戦後「天霧」の乗員とケネディの間には親交が結ばれています、いい話です。


…そして小学生もの頃、たしかに「えらいひとのはなし」だかなんだかでケネディ大統領の伝記を読んだ(読まされた?)覚えがあるんだけれど、今では記憶に残っているのがこの天霧とPT-109が激突した一件だけだってぇーのはあんまりいい話じゃないよな(´・ω・`)


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