大日本絵画「朝鮮戦争航空戦のエース」

オスプレイ軍用機シリーズ「○○のエース」は原著の3つのシリーズを統合している関係上、邦題に反してエースが主題になってない本が結構あるのですが、今巻は明確に朝鮮戦争エースパイロットを扱っています。

表紙イラストにもある通り朝鮮戦争の航空戦といえばやっぱりセイバーVSミグ15、ジェット戦闘機の黎明時代にあってここまで好敵手といえる関係も他に例を見ません。本文記述もそこがメインで、事実朝鮮戦争のエースは大部分がその戦いから生まれています。


著名なパイロットの有名なマーキングを施した機体のイラストが多数収録されています。双方ともむかしからキットに恵まれていまして、個人的に親しみがあるのはハセガワのF-86FセイバーにタミヤのMiG-15かな。どちらも同じヨンパチでほぼ同時期にリリースされて、よいライバル関係であった覚えが。


そしてもちろん、それだけではありません。ジェット黎明期であった朝鮮半島上空はプロペラ軍用機が主力であった時代の最末期でもあり、両者が入り乱れる戦場も(いささか語弊がありますが)ユニークではある。ただ機体だけでなくパイロットに於いても同様で、新世代の若い飛行士と共に第二次世界大戦のベテランたちも、翼を連ねて戦っています。第二次大戦当時は共に連合国の一員であったソ連空軍トップエースのイワン・コジェドゥーブ、南太平洋戦線で山本五十六撃墜を指揮したジョン・ミッチェルといった人々が今度は干戈を交えているのは不条理な感も受けますが、そういう戦いです。

しかし米軍のベテランパイロットにセイバーの新型照準器の使い方が呑み込めなかったので仕方なくキャノピーにチューインガム貼って代用してた人が都市伝説ではなくて本当にいたって話は、特に不条理に感じません。だってアメリカ人だし(w


海軍や他の国連軍も含めて初期ジェット機の運用風景も興味深いところです。土嚢を積み上げた耐爆掩体なんて最近とんと見かけませんね。「エリア88」あたりが最後ですかねえ。ジェット夜間戦闘機のF3Dスカイナイトが旧式のレシプロ複葉、Po-2夜間爆撃機を撃墜した瞬間に相手が遅過ぎて空中衝突したなどという、実に気の毒なエピソードも如何にも朝鮮戦争ならでは…


戦争勃発直後の米軍優勢からロシア人パイロットによるミグの逆襲、対抗策として投入されたセイバーによるパワーバランスの変化と大まかに言ってしまえばそういう流れなのですが、決して投入当初からセイバーが優位に立てた訳ではなく、実際に戦っていた飛行士たちの話を主にいくつもの苦闘が様々に記述されています。



ところで、しばしば「F-86とMiG-15はどっちが強かったんですか」なんてことが聞かれます。答えは様々言えるのですが本質的に制空戦闘機であったセイバーと迎撃戦闘機であったミグとでは、対抗するものであれ比較するようなものではないのかもしれません。外観こそ両者は酷似していますが、侵攻側と防衛側とでは戦闘方法も運用機器も異なるものです。精々共通してるのは中に入ってるのが同じ人間だってことぐらいです。


やがて劣勢を挽回した国連軍――特に米空軍――ではパイロット達が撃墜数を競い合います。しばしばそれは「ミグフィーバー」と呼ばれるほどの狂騒を演じて交戦規則を無視して中国領内へ侵入するような事態を招き、例え撃墜記録が向上すれば全体の士気を高める効果のあるエースパイロット達であっても、逆に敵機に落とされるような事態が生じれば却って悪影響を及ぼしかねません。だんだんと“エース”達は矛盾した立場に置かれていきます。


また本書では一章を設けてロシア人パイロットについても記述されています。ロシア側の証言と比較すればセイバー勢がかつて言われていたほどの高いキルレシオを保っていなかったことは明白で、その点に関しては例えプロパンガンダ全盛時代の記録であっても詳細な分析が必要とされるでしょう。それはともかくとして「正義」の側に属し帝国主義から朝鮮半島を防衛する任務に就くと信じていたロシア人パイロット達が、しかし戦場で捕虜になれば家族に害が及ぶ共産党政権下の脅威に直面していたというのも矛盾だなぁと考える。“エース”って一体なんなのでしょう?複雑ですね…


とゆーわけでエース使用機でも何でもない、仁川作戦で捕獲されたYak-9貼って〆。いやぁ人間、陽の当らないところに居た方が落ち着きますねぇ…

「MiG-15に乗って亡命してきたら賞金出すよ!」と謳ったアメリカ政府のキャンペーンに応えて、いざ亡命者が現れた時には財源が用意されてなかったって話にどこの世界も同じだなぁとか思いつつ。

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