ニチモ「1/30 4号戦車 G型」

懐かしく思い出される方も多いのではないでしょうか、本日紹介するのはニチモの1/30スケール四号戦車G型です。高荷義之画伯の手がけたボックスアートは今でも充分な迫力を持ち、現在の戦車模型が何か大切なものを失ってしまったのではないか……と、そんなことを思わされたりもします。


素晴らしい箱絵を引き立たせる大判のパッケージを開くと様々なパーツが綺麗に配置されています。このキットの初版発売期日は残念ながら存じ上げないのですが、その当時は今よりはるかに「高級品」の雰囲気を持っていたことは間違いないでしょう。いまでこそまず開発されない1/30スケールの戦車模型というものも、タミヤの1/35モデルが世界を席巻する前には日本国内の複数のメーカーからいくつもの製品が発売されていた…・・・と、ものの本にはよく記されています。ニチモの1/30シリーズも61式戦車やタイガー1など豊富な車種がラインナップされていたそうですが、さすがに永らく絶版のままでした。


ただこの四号戦車G型と三号戦車M型は、90年代の末期だったか21世紀になってすぐだったか、ともかく一度再生産が行われてボール紙のスリーブ付きで流通しました。この時期店頭で目にされた方も少なからずいらっしゃることでしょう。ちなみにそのスリーブには「復刻永久保存版」のスタンプが押印されておりまして……永久保存版のキットをそう易々と組んでしまってよいものか、いささか悩みましたが……

ご承知の通りニチモこと日本模型は既にメーカー活動を終え、最後まで稼動していたウェブサイトも先日とうとう閉鎖されたと聞きます。これまで当ブログでニチモの艦船模型を扱ったことはあっても考えてみれば戦車模型は初めての機会。やはりプラモデルは実際に組み立ててこそ、その楽しさを知りそれを伝えることも出来るであろうと、そういう意識で組んでみるのです。


パッケージはデザートカラーのイラストでしたがプラパーツの成形色はジャーマングレイ。形こそ見慣れていてもやはり1/35スケールに比べるとひとまわり大きなサイズには不思議な感覚を受けます。



OVM類はさすがに大味で、それでも車体と一体成型にはせず別個にパーツを起こしています。元々モーターライズで動力走行させるのが前提のアイテムではありますが、精密化の志向も備わっていたわけですね。同じニチモの戦車模型でも後発の1/35スケールでは一体化されているのですなこのあたり。


転輪関係のなかに目立つふたつの大きな円形パーツは金属シャフトと起動輪を接続する際に使用するカバー。なんでそんなものが必要かは追々……


車体も大柄。当時ニチモの1/30スケール四号戦車のバリエーションっていくつかあったのかな?ちょっと調べたらF2型とかH型とか画像がいくつか出て来たんですが、どうもそれらは1/35スケールの製品らしくて


車長と操縦手の2体(1体半というべきか)のフィギュア付きです。モーターライズの戦車模型にフィギュアを乗せることで実感を増す手法はタミヤのミリタリーミニチュア開発意図でよく知られる話ではありますが、この1/30四号戦車にフィギュアを付属させたのはいつ頃のことなんだろうか。


足回りの金属シャフト関連とデカールシート。デカールにはフリーのナンバー(取説に3桁の車体番号に対する説明があります)と鉄十字、および部隊マーキングが6種、装甲師団ではなく「戦車師団」表記になっているのがこの時期のものとしては珍しいかもしれません。またパッケージ画は何故かアフリカ軍団のマークを描いたG型が英軍のバレンタイン歩兵戦車を撃破している絵柄なのですけれど、幸いにしてヤシの木マークは付属しません。


「四号戦車G型」が北アフリカに配備されていたか否かはややこしい話になるので詳しくは触れませんけれど、高荷画伯のこのイラストはさすがに何かの勘違いだと思われます。が、まー良いんです、格好いいんだから!!


アイテムあるいはグレードによっては連結可動式(!)キャタピラの製品もあったそうなのですが、本製品にはベルト式履帯が付属します。バリもいろいろ出ていましたが個々の履板のスキマはよく抜けています。


車体表面には均質な梨地処理、控えめながら溶接痕のディティールも盛り込まれています。


車体裏面にはメーカーロゴと製品名のが刻印されています。開発年度も記録されていると(記事的に)宜しかったのですけれど。


足回りは全輪に渡って金属シャフトを用いた回転軸を組んでいくのですけれど、その際「プラ六角座を図のような位置にうちこむ。」とか「このナットが、スプロケット・ホイルの六角の穴に入るようにたたきこむ。」などとおよそ現代のプラモデル製作ではまず出てこない豪快な語法に驚かされます。例の起動輪のカバーとはトンカチでパーツを叩く際の保護用カバーなのでした……


トンカチとチューブ入り接着剤が描かれたイラストには何やら古代世界の壁画を見たかのような、カルチャーショックを、その……


そのような工程を経て組み立てられる車体下部。転輪関係は確実に回転するものの、取り付け位置の遊びも若干大きくなります。


上部転輪はポリキャップで回転するのですが、この部分の構成もポリキャップを車体側の受けに使用しプラの軸で転輪を回すという、今の目で見ればちょっと変わった配置になっています。それはともかくとしてこの部分にディティールは必要だったんだろうか(笑)


主砲砲身はな〜んか短めです。43口径砲のようにも見えます。


それを砲塔に取り付けようかと思ったら、パーツを見ていたときには気がつかなかった砲塔前面装甲板2か所の溶接痕ディティールを発見しました。これはちょっとビックリ。主砲取り付け用の開口部に伸びる2本の溶接痕は前面装甲が一枚板ではないことの証しで、四号戦車の基本構造の脆弱性を物語るもの……なのですけれど、フツーこんな目立たないところは省力されますね普通はね。星の数ほどある四号戦車のプラモを全て見たわけではない自分ではありますが、ここは省略せずしっかりモールド化しているのキットは初めて目にしました。タミヤもドラゴンも省略してますからねえ、ここが溶接構造だって知らない方も多いんじゃないでしょうかあーいや自分もつい最近知ったんですけれどね(w;


とはいえ組んでしまえば全然見えないし砲塔各部のディティールはそれなりに大味だしで、なんでそこに拘ったのか不思議なディティールではあります。


砲塔近辺は取説のパーツ接着支持がやや杜撰なので注意してください。砲塔吊り下げフックは4つあるB-15パーツのうち2つをここで使用します。またゲベックカステンとその支持架C-25、26の取り付けはかなりの現物合わせになりました。


OVMには省略されているものもありますけれど、変にディティールアップするよりはキットの素性を素直に楽しんだほうがよいかと思われます。モーターライズが基本なので車体上下の取り付けはハメコミ式なのですねこのキット。


キャタピラは昭和の香り立つ焼き止め式です。作業の際にはケムリを吸い込まないように注意だ。長さに余裕があるのとテンションがさほど強くないので垂れ下がりが生じます。が、あまり自然な位置関係ではなかった。


「ドイツの戦車兵はみんな黒服」そんなふうに思っていた時代がぼくにもありました。だからってフィギュアを黒のプラで成型しちゃったらディティールがさっぱり見えなくなるのだなこれが。


ひと通りの完成です。砲塔/車体のハッチは開いた状態での固定式で、フィギュアを搭乗させるのが前提となった設計がされています。


さすがに足回りは頑丈なつくりで手で持って(かなり、豪快に)ブンドドしてもまったくビクともしません。そういう良さは確かにある。


アンテナは金属線で付属して「コイルの部分を火であぶり、アンテナポストにつけます」のはさすがに豪快すぎるだろうからポスト部分を削って瞬着で固定。何にせよアンテナ付け根がフリーで可動するのは実物の機構をそれなりに反映するものですね。


車体全体のプロポーションや各部のバランスを見るとやっぱり見慣れた四号戦車のかたちとは色々異なって見えます。こと「正確性」に関しては現行品にいささか遅れを取るものです。しかし今現在のデジタル設計ではこのようなちょっと「柔らかい」かたちを作り上げるのは却って難しいことかも知れません。設計者の「性格性」を垣間見させるプラモデル……とでも言えばよいか。


正直言って「いま、この時期」に本キットをプッシュする理由を探すには若干辛いものがあるのも確かです。しかし再販の見込みも全く立たない現状でもあり、むしろ今だからこその、なにか魅力を見つけて提示したい気持ちにはなりますね。

意外とfigmaなんか似合いそうな気もするんだけどな……

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