MG誌2014年1月号付録マガジンキット、1/72スケール三菱九試単戦(試作一号機)のマガジンキットです。
すっかりおなじみファインモールド製のインジェクションキット。当初のアナウンスでは映画「風立ちぬ」公開中の7月リリース予定のはずでしたが何故だか年末にズレ込んでの飛行です。公開中に出してたほうが話題には乗り易かったように思いますが、結果的にはお正月っぽい表紙の1月号になったからそれはそれでいいのかな。
マガジンキット零戦シリーズの流れを汲む製品、しかしながら実機がシンプルな構造のためキットのほうもパーツ数控えめの組み立てやすいものとなっております。
ランナー枠内での部品配置こそ違えどパーツ分割そのものは近日リリース予定のヨンパチ九試単戦とほぼ同一で、設計の基盤は共有されているのでしょうね(ホビーショーに展示されていた配置図を見ての話なので、実際の製品版では違ってくる可能性もあります)
デカールは日の丸のほか計器盤、プロペラブレードの赤ラインのみ。予備を含めたポリキャップ2個と小さな風防のクリアーパーツ。
実機は現存せず資料も少ない機体ですが、機体各所のパネルラインをはじめとして手堅くまとめられています。九試単戦の一号機って試験飛行が全部済んだら強度試験に掛けて壊しちゃったのね。映画はそこまでやってなかったようですが……
堀越二郎主任設計による三菱製の機体だけれど、エンジンは中島製の寿五型を搭載しています。日本の航空機が敗戦まで終始悩まされたエンジンの問題はすでにこの時期から始まっていたということか。イギリスみたいに変態方向に行かなかったのは、良かったんだか悪かったんだか。
コックピット周辺パーツはやっぱり小さいものですけれど、パーツ総数が少ないのと実物が零戦ほど凝った設計ではないのとで作りやすいものになっています。映画を見てはじめてプラモを作ってみるようなファン層にも配慮したような構成でもあり。
零戦の場合は小さな補機類のパーツを胴体にモールドされた桁材に貼り付ける作業(ピンセットの使用が推奨されていました)が大変でしたが、今回の九試単戦はコックピット部分の左右に桁材を取り付けるかたちになっています。桁材の一部を取り出すという実機の構造とは違った処置ですが、当初から桁材のパーツ(C7)に補機がモールドされているのがおわかりでしょうか? それぞれのパーツ取り付けも確実に決まる、組み立てやすさを優先した設計になってます。
計器盤パーツC5は先にコックピット前部フレームC9に取り付けて角度調整したほうがスムーズに進められると思われます。計器類を塗装する場合でもこのままランナーを持ち手に使ったほうがよいでしょう。なお隣に写りこんでいるC6パーツは計器盤をデカール仕上げにするためのパーツ。
バードケージコックピット(って言わないよ)試作一号機でも機銃装備しているのは要求性能通りのものです。
よく出来たコックピットですけれど、胴体を合わせるとやっぱり全然見えなくなりますねえ。機首上面パーツA9は分割線がそのままパネルラインなので埋めずにそのままでと、製作上の諸注意が本誌記事として丁寧に読めるのはマガジンキットの長所だけれど、狭い作業スペースに雑誌広げて進めにゃならんのはマガジンキットの短所でもあり……
主翼前縁のゲート跡は指示通り丁寧に処理しましょう。このあたりは映画と同様美しい飛行機を作りたい気持ちで(と、映画を見てもいないヤツが申しております)
寿エンジンは空冷星型一重のエンジンなので、やはり零戦の栄に比べて作りやすいもの。
カウリング前面は大きく開かれプロペラも二枚だけなので思いのほかエンジンが目立ちます。塗装に手をかけ、記事に例示されているように配線を追加してみるのも良いでしょう。また細かなことですが主脚取り付けダボ
を左右で変えているのは◎。失敗避けって大切なんです。
水平尾翼の左右水平を揃えるのには若干手間がありましたが、それぐらいしか手間がありません。非常に良くできたプラモデルです。
微小なパーツを取り付けて完成。本誌の製作ガイドでは組み立てと塗装を同時に進行させる手順が丁寧に解説されています。「はじめての飛行機プラモデル」として取り組むのも良いかも知れませんね。ところでキャノピーと機体上部のハンプバック(って言うのかな)部分はこの段階では仮止めです。理由は後述。
逆ガル翼の機体は斜め後方から見ると栄える(※個人の感想です)主翼と胴体との結合を直角にした方が空気抵抗が少ないと、確かそういう理屈の設計で1930年代の飛行機には稀に見られるものです。この九試単戦が1935年に完成、同じ年にJu87が初飛行で若干遅れた1938年にXF4U設計開始、40年初飛行と。
いやー、やっぱり機体外形よりエンジン出力の方が肝だったんじゃないかと、思いますけれ……ど? 巷間よく言われる「零戦の防弾軽視」も人命の軽重よりはパワーウェイトレシオの問題だったりするわけで。
正面から見ると日本機らしからぬ(?)迫力があります。試作二号機以降は逆ガル翼を取りやめたためにこのラインは失われてしまうのですが、もし九六艦戦がこのままの主翼で実用化されていたらその後の零戦も細いコルセアみたいな戦闘機になったんだろうか。いや流石にそれはないか。
上面から見てみれば主翼の平面形状は九六艦戦とほぼ相似、後部に向けて細く締められたボディラインは零戦へと受け継がれていくものです。本機からはじまる設計思想は中島製の陸軍九七式戦闘機にも色濃く影響し、九試単戦こそはまさにその後の日本軍戦闘機開発の流れを主導した、日本の航空史上でも大きなマイルストーンとなる機体だといえるでしょう。宮崎駿監督が日本の飛行機でストーリーを構想したときに敢えて零戦を外したのも、それなりに意味のあることだったんだなーと、それは本キットを組みながらいろいろ調べて納得がいきました。フツーは零戦テーマにしますよねーフツーはねー(と、別の映画もやはり見ずに申しております)
これまで模型的にはミッシングリンクだった九試単戦、限定とはいえインジェクションキットで入手できるのは意義深いことです。「幻の機体」であるからこそプラモデルでは自由な発想で、それこそレーサー仕立てで組んでも悪くは無いのでしょうが、流石に限定キットでそれをやるのは勇気がいることでしょうねうーむ。
モデルグラフィックス本誌のほうは「堀越二郎と宮崎駿 ふたりが見上げた同じ空」特集。映画「風立ちぬ」を受けての特集内容であることは間違いないのですが、直接タイトルを謳うものではないのがポイント。本文では映画の内容に言及してるし原作マンガのコマもいくつか掲載されてるけれど、映画そのもののビジュアルがひとつもないのはおとなの諸事情というやつでありましょうなあ。
特集内容はマガジンキットの作例のみならず映画本編の内容を越えて同時代的・人間的にも関連する機体が製作されています。竹一郎氏入魂の1/72フィギュアを使用したドボアチンD.510情景や佐竹政夫画伯フルスクラッチ(!)によるカプロニCa.309“ギブリ”、レベル製ユンカースG.38改造による1/144九二式重爆など姉妹誌スケールアヴィエーションに匹敵するような濃い目の飛行機モデル満載で映画見てない輩でも十分楽しめます!
えっ。
特集以外の記事では見開きも収録されてるハセガワ製ヴァンシップのディオラマがクラッシュ表現だけでなくベースの裏側まで凝りに凝った内容、CGよりも本物らしいバトルスター・ギャラクティカ電飾モデル、モデルカステンから製品化決定のガルパン知波単学園西絹代フィギュアなどが個人的にツボです。そしてトランペッターT-90“鋳造砲塔”レビューの関連でスベズダ、MENGと三社競作になったT-90キットの差異が検証されています。モデルアート1月号にもほぼ同様の企画が掲載されていますが、戦車に限らずこの先スケールモデルのバッティングと高価格化が続くのならば、このような分析は雑誌から発信できる情報として重要なものになるかも知れません。客観性をどこまで保てるか、難しいところでもあるのですが。
ところで「極端流超実践模型写真塾」が終わってしまって悲しいなあ。あれは今時の模型の楽しみ方として非常にためになる連載記事だったと思います。
さて、ここでキットにもどってひとつやりたいことがあります。なぜにキャノピーその他上部パーツを仮止めに留めたかといえばスバリこれをやらんがためである。
おぼえていますか?
「零戦と九試単戦はそっくりなんです」
「ウソだと思うなら、この九試単戦を引き込み脚にして、零戦の風防を被せた姿を想像してみればいいんです」
マガジンキット九試単戦開発に際してファインモールド鈴木社長のお言葉です。よっしどおーんとやってみようじゃありませんかプラモデルで。この日のために使わずに置いた零戦マガジンキットの風防パーツ使って!
お、おう……
なんかその、
ソックリデスネー(白目)
固定脚のままならばかろうじて九九式軍偵/襲撃機に、似てるといえないことも無くはない程度のその……