サイバーホビー「1/35 日本海軍水陸両用戦車 特二式内火艇 カミ」

プラッツ扱いサイバーホビー緑箱、ドラゴン初の1/35スケール旧日本軍AFVは発表以来各所で大反響の特二式内火艇カミ車です。模型誌始め実際手にとって作られた方も多いでしょうが、まあそこは趣味の領域で取り上げる。
しかしパッケージ画は美しいですね。時に目を疑うような物も散見されるドラゴンアイテムにあって1、2を争う傑作絵画だと思います。



スライド金型を利用して複雑な外形もたった3パーツでほぼ網羅。完成形を想像し易いのは良いことで、これ見てるだけでもやる気がモリモリ湧いてくるぞ(笑)

物の本では稀に「逆上陸用に開発された」と解説されることも多い特二式内火艇ですが、実際のところは普通に揚陸戦車として作られたのであって、出来上がった時期にはどこもかしこも守勢になってて逆襲上陸以外使い道がなかったとゆーのが正解みたいです。そんでよくレイテ島オルモック湾への輸送作戦が逆上陸の例で挙げられるけれど、ありゃ逆上陸というより逐次投入各個撃破の例じゃあるまいか。なんてゆーヤツぁ国防婦人会に吊るし上げられて硫黄島に配属の刑だ。






その他、パーツ一覧。少ない分割で的確に組み上げられていくスマートキットの面目躍如といった内容です。


キャタピラは軟質素材、エッチングは必要最小限、デカールは砲塔側面に軍艦旗を描いたサイパン島配備車両と3ケタの車両番号が記されたニューギニア島アイタペ配備の車両がセットされています。どちらも記録写真が多く残されている、特二式と言えば大抵これじゃないかなって車両ですね。なお塗装に関しては軍艦色が指定されていますけれど、占守島配備車両では「緑一色であった」証言もありますし、米軍の記録したカラーフィルムでも緑系のカラーリングを見た記憶がある…





「魂は細部に宿る」とよく言います。本キットの魂はいくつあるのだと言うくらいに個々のパーツの詳細にディティールが入っています。初の立体表現であろう転輪ボルトの固着ワイヤーや九七式車載重機関銃銃身覆の上部排熱スリット、さらにはスクリュー基部の溶接痕や最終減速機カバーの鋳造表現など枚挙にいとまがありません。特二式って決してメジャーとは言い切れない車両だし、メーカーサイドが一体どれだけの「数」を見込んでいるのか不明ですけれど、それでも製品開発に関しては多大なエネルギーが費やされているようでいやー、いろいろ考えちゃいますよ、ねえ?


防盾部分の照準孔をはじめ車体各所のピストルポートはすべて開閉選択式で随分とパーツ数を奢ってますねぇ。しかし組んでいて思ったのだが水陸両用戦車がこんなにいろいろ穴だらけで良いのだろうかは。


完成すると見えなくなる車体内部も燃料タンクやフロート着脱ハンドルなどかなり再現度の高い物…というよりこのキットで初めて知った内部事情。バルクヘッドが無くてエンジン剥き出しであったとは聞きますが、フロートの着脱は言うほど迅速では無かったろうなーと、それは想像です。しかしいったん外すと再度結合するのは現場じゃ難しいんだろうな。


主砲となる一式37ミリ戦車砲。旧日本軍は大戦末期まで37ミリ砲の火力強化を計っておりまして、砲身延長・薬室増大した本砲は二式軽戦車・五式中戦車などにも採用されたものです。初速・貫徹力とも相当進捗されてはいるのですが、既に時代はこのクラスの戦車砲に活躍の場を与えませんでした。

スペックはともかく模型としては大変良い出来。特に閉鎖機パーツC2のスムースなはまり具合には感動ものです。そしてどこにも書いてませんが、防盾C15に駐退複座機カバーC45を取りつける際にはあらかじめ下面にC46を接着するのを忘れないように。

あいかわらず説明書は誤表記多いです。文京区四谷方面にはいつもお世話になっております m(_ _)m


一部パーツは仮組状態でキャタも履かせていませんが、ほぼ完成状態。大戦後半の日本軍AFVにあって本土決戦に温存されずある程度の数が最前線に配備された車両にしてはこれまで立体化の少ない存在でしたので、初のインジェクションキットにして事実上の決定版リリースには万歳するしかないよね。 カミサマ∩( ・ω・)∩ ヽ(`Д´)ノバンジャイッ


後方パース。キットの指定ではスクリューはゴールド塗装でいかにも船っぽいんですけど、モノクロの記録写真みると車体色との差異を感じないんだよなー。この辺り実際どうであったかよりも模型映えを重視した方がなにかと宜しいかと存じますが。


実際に組んでみるとわかることってあるもので、砲身トラベリングロックだろうと思ってたB36〜41あたりの部品、どうやったって主砲が届かない位置です。フロート装着時の操舵ワイヤー受けなのかなー。実際いろいろと謎は多い車両なんですけどね。


砲塔にしても大抵の資料には「二式軽戦車のものを流用」と書かれているけれど、「九八式軽戦車の後期型は二式軽戦車と同型の砲塔を使用」なんて記述を見つけると、じゃあ特二式の主砲って一○○式戦車砲だったりするの??などとドミノ倒しのように疑問点が溢れてくるので、あんまり深く考えるのはやめよう…

本キットでは車体前面のフロート取り付け金具の有無で前期型/後期型を選べる商品仕様となっていますが、前期後期の最大の違いは本キットに付属していないフロートの形状だったりする(クビンカ博物館に現存する車体がいわゆる後期型です)


開発の大元になった…とされる九五式軽戦車と並べてみました。ネタ元とはいえ幾つかの機構を流用した程度なので見た目で似ているのは足まわりぐらい…とか思ってたらなんかもー全然違うのよ。強いて言えば転輪ボギーの支持架ぐらいか…しかし手持ちの九五式は北満型だったんでそこも共通してない罠 Orz


「図体の大きい軽戦車に過ぎない」って評もよくわかります。今も昔も水陸両用戦車の設計って難しいもので、浮行能力を高めようとすると火力や装甲がトレードオフされるのが大抵ですね。基本は「兵員輸送車」であった米軍のLVTと違い、あくまで「戦車」であった一連の日本海軍特式内火艇(特四式除く)がどこまで有用であったのかという疑問については、戦後米ソ共に鹵獲調査したこの特二式内火艇カミ車が、以降の両軍の水陸両用車両開発にまったく影響を与えていないことがひとつの証左になるかもしれません。

が、しかし――

このプラモデル自体はこれで十分、ネ 申


うん、実はそれが言いたくてやったんだ(´・ω・`)


尚今回の記事執筆にあたってはアーマーモデリング誌連載記事「帝国陸軍機甲部隊の塗装と識別標識」「帝国陸海軍戦車大全」を適時参照いたしました。AMの日本戦車記事も情報量多いんで、いつか単行本化してくれないかな…


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